妊娠中のCOVID-19症状および垂直感染リスクに関連する危険因子

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0. 論文タイトル・URL

Risk Factors Associated With COVID-19 Symptoms and Potential Vertical Transmission During Pregnancy: A Retrospective Cohort Study
https://www.cureus.com/articles/79301-risk-factors-associated-with-covid-19-symptoms-and-potential-vertical-transmission-during-pregnancy-a-retrospective-cohort-study

1. この論文の目的・どこの研究か

2022年3月6日にPublishedされた妊婦の転帰に関わる危険因子を調べたJohn H. Stroger, Jr. Hospital of Cook Countyの研究です。

2. 先行研究とこれまでの問題

大規模な系統的レビューを含む複数の研究で、非感染の女性の新生児と比較してCovid-19に感染した女性を母親に持つ新生児の垂直感染および臨床症状の全体的なリスクが高い可能性が指摘されています。また、妊娠が女性の重症度および死亡率に大きな影響を及ぼすという内容の報告も蓄積されてきています。例えば、ある研究ではSARS-CoV-2感染妊婦は早産やICU入院リスクが高まる可能性が指摘されていました。

最近では、高齢、基礎疾患(免疫抑制、高血圧、糖尿病)、人種・民族(黒人、ヒスパニック、アジア系)がCovid-19の重症化リスクを高めることがコンセンサスとなっていますが、妊婦および新生児におけるリスク因子については、未だ議論の最中です。この点、現状では、以下のようなポイントが確認されています。

  • 妊娠前のBMI、リンパ球数、心拍数、呼吸数がSARS CoV-2感染妊婦の疾患症状の発現リスクを上昇させる
  • これらの因子は、症状を示す女性における早産のリスク増加とも関連する
  • ヒスパニック系の妊娠中および出産後の女性1,567人を対象とした研究では、肥満が中等度および重度のCOVID-19の主要な危険因子であることが確認されている
  • リスク上昇の潜在的な理由の1つとして、胎盤組織の損傷が想定されている

3. この論文の目的

そこで本研究では、SARS-Cov-2に感染した妊婦の重症度に影響を及ぼす人口統計学的、臨床的、生化学的特性の調査を行っています。特定のリスク因子を発見できれば、特に注意ぶかくモニターすべき妊婦のジャッジに役立つと考えられます。

同時に、妊娠経過、垂直伝播、胎盤の病理組織学的評価、新生児の経過に対する重症度の影響についても検討が行われました。

4. 方法

2020年4月1日から8月15日の期間(米国の第一波の時)に、妊娠年齢、分娩期を問わず入院、検査でCOVID-19が確認された全妊婦を対象とした後ろ向きコホート研究を実施しました。研究の詳細は「7. 補足」に示しています。

5. 結果

その結果何が分かったかといいますと、

  • 34人の妊婦(平均年齢は26歳)がSARS-CoV-2陽性と判定され、そのうち55%が有症状であった。有症者のうち68%が発熱と咳の症状を呈していた。年齢と人種・民族の分布は、昇降性患者と無症候性患者の間で有意な差はなかった
  • 症状のある女性は、症状のない女性と比較して、肥満、妊娠糖尿病、高血圧を多く有しており、妊娠前BMIが有意に高かった(P=0.004 )。妊娠前BMIが1ユニット増加するごとに、SARS Cov-2感染による有症状のオッズは18%増加した。
  • 症状のある女性と症状のない女性では、分娩形態に差は認められなかった(P=0.493)
  • 無症状者に比べ有症状女性では好塩基球数の有意な増加が確認された。しかし、白血球減少症、好中球減少症、リンパ球減少症などの血液異常症には有意差を認めなかった。腎臓や肝臓の機能にも差は認められなかった。症候性女性は無症候性女性と比較してカリウム値が有意に低かった(3.70 mEq/L vs. 4.30 mEq/L, P=0.009)。出産前の妊婦の血清カリウム値が1ユニット減少すると有症状のオッズは19.72%増加した。
  • カリウム値の低さが疾患の重症度に及ぼす影響は、BMIが高い場合に、より顕著だった。産後死亡した唯一のケースでは、コホート中で最も低い低カリウム値と最も高いBMIの両方が観察された
  • 胎盤の病理組織学的特徴とCOVID-19の症候との関連は認められなかった。しかし、無症状の女性に比べ、有症状の女性では、FVM、免疫/炎症プロセス、およびchorangiosisが多く確認された。
  • 有症状女性から生まれた新生児の平均出生時体重は、無症状女性から生まれた新生児より有意に高かった。新生児の大半は無症状であり、症状のある新生児5名では最も一般的な症状として一過性の頻呼吸が観察された。頻呼吸を呈した5人の新生児のうち、4人は症状のある母親から生まれていた。COVID-19が陽性となった新生児は一人もいなかった
  • 症状のある母親から生まれた1人の乳児のIgMレベルが、症状のない母親から生まれた4人の乳児と比べて高かったが、サンプル数が少ないため、臨床的に意味のある解釈をすることは無理

6. 結論・まとめ

とまあこんな結果になりまして、この研究で押さえとくべきポイントを超雑にまとめると、

  • 高BMIと低カリウム値が母親のCOVID-19の症状発現と関連していたぞ!

といった感じです。前者に関しては、重症となった妊婦の多くが太りすぎ又は肥満だったといった趣旨の報告とも一致します。

また、後者に関しても過去に同様の傾向が確認されていまして、これは、

  1. 感染細胞でACE2が枯渇する
  2. ACE2の枯渇は血管収縮を亢進し、水とナトリウムの再吸収を増加させる
  3. カリウムが出ていく!

といったメカニズムが想定されます。カリウム値の低さは心イベント含む重大な状態を引き起こす可能性があることから、研究チームも血清カリウムを監視、十分なカリウムの補給を確保する必要性を指摘してたりします。

もちろん、本研究はサンプル数が限定的で、レトロスペクティブなデザインであることから因果関係を明らかにすることはできないものの、先行研究よりパワーも高めだしし、カリウム値なんかは症状発現のバイオマーカーとしても利用可能かもしれません。また、垂直感染のリスクに関してはさらなる研究が必要でしょう。

7. 補足(研究デザイン)

  1. Covid-19の評価は、WHOの診断ガイドライン通り、鼻腔または咽頭スワブのRT-PCRアッセイ陽性によって定義。COVID-19関連症状(発熱、咳、筋肉痛、無気力、鼻づまり、頭痛、悪寒、呼吸困難、吐き気、嘔吐、倦怠感)のデータがなく、有症状と無症状に分類できない患者は除外。また、妊娠関連合併症のデータが不足している女性1名も除外した(彼女は妊婦検診を受けていなかった)
  2. 年齢、人種・民族、BMI、生活習慣(薬物乱用、飲酒、喫煙)、妊娠前肥満、高血圧、妊娠糖尿病などの併存疾患、ヒドロキシクロロキン治療を含む分娩前療法を受けたかどうかなどの人口動態および母体のベースラインデータを収集。すべての参加者は、症状の臨床評価、血液および尿サンプルの詳細な実験室評価、および必要に応じて胸部放射線評価も受けた
  3. 母親の血液サンプル評価には、ヘモグロビン、血球数、炎症マーカー(CRP)、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩化物)の血清濃度、肝機能(ALT、AST)、腎機能(BUN、クレアチニン)などが含まれた。
  4. 妊娠転帰(分娩様式、妊娠年齢、子癇前症など)および新生児転帰(症状、脈拍、顔色、APGARスコア、出生体重など)に関するデータを記録した。早産は、37週未満で発生したものと定義した。妊婦の血液異常の定義には、妊娠期間に応じて特定のカットオフ値を用いた
  5. アムステルダム・コンセンサス・ステートメント・ガイドラインに従って、胎盤の肉眼評価と病理組織学的評価を行った
  6. さらに、新生児から採取した血液サンプルの検査を行い、出産後6週間まで母子ともにフォローアップを行い、生後年齢に応じて特定の血液異常の有無を検討した。
  7. 垂直感染の証拠は、CDCガイドラインに従って、SARS-CoV-2の存在について評価された。また、必要に応じて、乳児のIgGおよびIgMレベルを評価した
Tomohiro Okugawa

科学的知見を自分の体で試して、日常生活に活用していく人。知識の収集が趣味で一般向けにその共有をしたいと思って執筆中。京都大学環境衛生学等。

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