皆がワクチン打ったらもうマスクはしなくていいの?問題についてシミュレートしてみたよ!って研究

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抗体保有率に関わらず、各国でマスクの着用義務が解除されてきているのはご存じの通り。自然感染およびワクチン免疫による防御能がいつまで持続するか?といったポイントが注目されておりますな。

そんなところで先日、「マスクっていつまでつけてればいいの?」って疑問のヒントになりそうな論文(R)がThe Lancet Public Health誌に掲載されてました。ラボ実験でも観察研究でもマスクがSARS-CoV-2のトランスミッションを減少させることはコンセンサスとなってますけど、症例数だけでなく税金負担など社会的なコストも加味したうえでマスクの着用はいつまでコストに見合うメリットをもたらしてくれるのか?って話を調べてくれたわけです。

具体的には、モンテカルロシミュレーションモデルを使って、様々なワクチン接種率、その接種率が達成される時期等を調整し、米国におけるマスクの着用維持が感染状況や社会的なコストの観点からどんな効果をもたらすのかってところを分析してくれてます。マスクの着用状況とその予防効果に関しては、2020年3月から7月までのデータを使用したとのこと。

その結果、どのシナリオにおいても、一定のワクチン接種率に達したのち数週間後まで室内でのマスク着用を維持すれば、高い費用対効果を獲得でき、さらにコストの削減にもつながるってことがわかったそう。

具体的なデータをざーっと並べてみると、以下のようになります。

  • すべてのシナリオで、目標ワクチン接種率達成後2~10週間後までマスクの着用を維持した場合には費用効果が認められた(期間は季節によって変動する)。また、1人1日当たりのコストが最大1.25ドル以下であれば、コストの節約にも寄与できると推定された
  • 例えば、80%のフルワクチンが2022年3月1日までに達成された場合、その時点までマスクの着用を維持すれば、146億ドルの社会的コスト(生産性損失)、23億ドルのthird-party payerコスト、629万件の感染、13.8万件の入院、1.6万件の死亡、18万QALYsの削減を期待できる。

    ワクチン接種率が70%だったとすると、206億ドルの社会的コスト、32.7億ドルのthird-party payerコスト、830万件の感染例、19.3万件の入院、2.3万件の死亡、25.3QALYsの削減につながる
  • 同様に、2022年5月1日までに90%の人がフルワクチンを達成した場合には、その時点までマスクの着用を維持することによって133億ドルの社会的コスト、24億ドルのthird-party payerコスト、629万件の症例、13.7万件の入院、1.6万件の死亡、18.1万QALYsの回避を期待できる。

    カバー率が80%だとしても、167億ドルの社会的コスト、29億ドルのthird-party payerコスト、766万件の症例、17.5万件の入院、2万件の死亡、22.4万QALYsの回避につながる
  • デルタ株やオミクロン株のようなよりトランスミッシブルな変異株が主流となっている場合には、マスクの着用維持による効果はさらに大きくなった。例えば、R0=10とすると、最大495億ドルの削減、179万件の症例の予防等の回避につながると推定された(3月1日までに70%と仮定)。さらに1か月長く(4月1日まで)マスクの着用を維持すれば、マスクを着けなかった場合に比べて追加で15億ドルの社会的コストや85.6万件の症例回避につながると予測された
  • 新しい変異体の出現や免疫の持続期間によっても違いが見られ、例えば、ワクチンの予防効果が50%となれば、マスクの着用維持によって823億ドルの社会的コスト、2910万件の感染、6.26万件の死亡等の回避につながる(70%の接種率で3月1日まで)。
  • たとえワクチンの予防効果が90%であったとしても、マスクの着用維持によって17億ドルの社会的コスト、10億ドルのthird-party payerコスト、193万件の症例の回避につながる(2022年3月1日までと仮定)
  • また、有症状者全員を隔離したとしてもマスクの着用はなおコストの削減に寄与し、具体的には3.6億ドルの社会的コスト、162万件の症例、3950件の死亡を回避できると計算された(50%のワクチン効果、3月1日まで、R0=5)
  • マスクの種類によってもその効果は異なり、マスクの除去能が10%向上すれば17~20%ほど感染例、入院、死亡を減少させることができる。しかし、全員がN95のようなマスクをつけられず、布マスクの人がいたとしても何もつけないよりはまし

みたいになってます。とにかく、一定程度のワクチン接種率に達したその数週間後までマスクの着用を続けることによって、相当数の患者や死亡を予防できるだけでなく、企業、医療制度、保険会社、納税者等様々な人がメリットを得られるってわけですね。これを見ると、今後も政府や保険会社等がマスクの提供等のために投資を続ける価値はありそうって印象を受けますね。

また、永久にマスクを着用する必要があるわけではないぞ!ってところもうれしいポイントなんじゃないかと。

研究チーム曰く、

フェイスマスクの着用に関するメッセージは、パンデミックの期間中行ったり来たりで一貫していなかった。最初はソーシャルディスタンスにフォーカスされ、次にフェイスマスクの着用に焦点があてられた。その後、Covid-19ワクチンが発表されるとそちらに注目が集まった。

しかし、パンデミックが継続する限り、複数の介入策を同時に実践していく必要がある。なぜならそれぞれがお互いを補完し、高めあっているからだ。

確かにワクチンは命を救うが、それだけでフェイスマスクの着用義務を撤廃できる社会にはならない。

とのこと。いったん一定割合の人がワクチン接種を完了してもウイルスのトランスミッションがすぐにはストップしないことは当然としても、まだ室内のフェイスマスク着用義務を解除するには尚早なんじゃないの?ってことですね。

もちろん、モデル研究では現実世界を多かれ少なかれ単純化しているものだし、この結果を米国以外にもどれだけ適用可能かどうかは個別の検討が必要です。しかし、よりトランスミッシブルでワクチンの防御能が低下してきたときこそマスクが威力を発揮するってのは覚えておいてもいいかもしれません。

参考になれば幸いです。それではまたっ!

Tomohiro Okugawa

科学的知見を自分の体で試して、日常生活に活用していく人。知識の収集が趣味で一般向けにその共有をしたいと思って執筆中。京都大学環境衛生学等。

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