国の政策は感染者数や経済だけでなく、メンタルヘルスにも違いをもたらしていたのでは?という研究

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海外渡航制限、証明書提示、接触者の追跡、学校や職場の封鎖、マスクの着用など、世界のCovid-19封じ込め戦略には強力なものから緩いものまでいろいろあるわけですけが、その効果の評価は感染者数や死亡者数、経済的損失の面で行われるものがほとんど。「時短営業にしたら感染者数が〇人減るけど、同時に△億円の損失が出る!」みたいなやつですね。

しかし新しい研究(R)では、「Covid-19パンデミックに対する公衆衛生上の戦略って感染者や経済だけでなくて、国民のメンタルヘルスにも違いをもたらすんじゃないの?」って話になっておりました。

強い規制を敷いちゃうと人とのつながりが感じられなくなるせいでうつっぽくなる人が増えるかもしれないし、逆に「自分は脅威から守られてる」って感覚を感じられるおかげでむしろメンタルが改善される可能性もあるのではないか?ということを調べてくれたわけですね。メンタルヘルスがCovid-19重症化や経済・社会的影響とも関連することは複数確認されていますし、なかなか気になる内容っすね。

では、これがどんな研究だったかといいますと、

  1. 日本を含む15か国のCovid-19パンデミックに対する政策措置と432,642人のうつ、不安、ウェルビーイング等メンタルヘルスのスコアを比較する

  2. 政策措置の種類によって、感染者ゼロを目指すような「エリミネーター」と、ウイルスの排除ではなくコントロールを目指した「ミティゲーター」に分類して、両者の死亡者数やメンタルヘルスの状況を比較する

  3. さらに、パンデミックに対するアプローチとメンタルの状態の関連が、パンデミックの深刻度合い(死亡者数や感染者数の数)によって違いがないかもチェックする

って感じになってます。調査の期間は2020年4月から2021年6月までで、パンデミックスタート時のデータが不足しているのが残念ですが、単に政策とメンタルの相関だけでなく、感染者数などの状況も分析に含まれてるのはうれしいところ。いくら緩い政策をとっても感染者が急増してたら国民が自主的に外出しなくなったりといった状況も考えられますもんね。

でもって、結果はどうだったかといいますと、

  • エリミネーション戦略を採用した国では、1日当たりの死亡者数が少ない傾向にあった
  • 規制やパンデミックの状況が厳しくなるほど、国民の心理的苦痛のレベルは高くなり、人生に対する評価は低くなっていた(「10段ある人生のはしごの中で今あなたは何段目にいますか?」みたいな質問でチェック)。この傾向はいかなる方針を採用した国でも同様に確認されたが、エリミネーター国ではこの関連は弱くなっていた。つまり、「ゼロコロナを目指します!」って方針だった国の方が規制が厳しくなってもメンタルが悪化しづらかった
  • 個々の政策別では、ソーシャルディスタンス、集会の制限、自宅待機等がメンタルにダメージを与えていたのに対して、学校、職場、行事、公共交通機関の閉鎖、国内旅行の制限などはメンタルヘルスと関連が見られなかった

だったそうで、規制を厳しくするとパンデミックの状況が悪化した時と同じようにメンタルにも悪影響が生じていたらしい。

しかし厳しい規制を敷いたら死亡者や感染者が少なくなる一方、メンタルの負担は大きくなってしまうというトレードオフの関係は必ずしも認められなくて、むしろ規制が厳しいほうがメンタルの状態も良好ってのは面白いですね。なんでこのような結果になったかって点については以下の2つのルートがあげられておりました。

  1. 規制が緩めの国ほどソーシャルディスタンスを採用しがちで、人間関係が超重要な人類にとって他人との繋がりを感じられないという感覚はダメージがでかい

  2. きびしい政策をとった国の国民ほど、自分たちの政府はよく働いてくれてる!って評価が高く、これが帰属意識を高め、メンタルの安定につながったのかも

以上の関係は15か国を全体で比較したときだけでなく、状況が似ているスウェーデンと他の北欧国を比較した場合にも同様に確認されたらしい。

研究チーム曰く、

早期対応と的を絞った厳格化を進めながら感染の根絶を目指す戦略は、死亡者を減らすと同時に、その過程で人々の精神的な健康も守ることができる。また、政府は、パンデミックへの対応に対する住民の信頼を高めるために、政策措置について明確で一貫した情報を提供する必要があるのだ。

とのこと。「厳しく規制しちゃったら国民が不安がるのでは…」って考えがちですけど、むしろその考え方が国民のメンタルを蝕んでいっちゃってるかもってのは皮肉なもんですねぇ。

Policy stringency and mental health during the COVID-19 pandemic: a longitudinal analysis of data from 15 countries

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Tomohiro Okugawa

科学的知見を自分の体で試して、日常生活に活用していく人。知識の収集が趣味で一般向けにその共有をしたいと思って執筆中。京都大学環境衛生学等。

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