パンデミック下のQOLを決定づける3種類のマインドセットとは?みたいなスタンフォード研究の話

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Covid-19パンデミックが私たちの生活に大きな影響をもたらしたのは間違いないところですけど、パンデミック期間中にメンタルがガクンと落ち込んだ人もいれば、逆に充実感を感じている人がいるのも事実。

そこで最近のスタンフォード大学など研究(R)では、「パンデミック宣言直後のマインドセットによってその半年後のQOLに差が生じるのでは?」って話になってて面白かったです。まずは研究チームの問題意識を確認してみると、

私たちは長い間、人々のマインドセットは不確実性の中で形成されると考えていた。だから、今回の出来事は不幸中の幸いで、マインドセットを研究するためのナイスな瞬間となった。

とのこと。先の見えない状況の中でどのようなマインドセットを構築するかによってその後人生の質が大きく変わるのだってわけですね。実際、この現象は多く確認されておりまして、例えば加齢を例にとると、

  • 「年を取ることは知恵を蓄積することだ!」と考えている人はより健康的な行動をとるようになり、実際に寿命が長くなる
  • 逆に、「年を取ることは衰えだ!」と考えている人は運動をしなくなり、人との交流も減り、心臓病にかかりやすくなったりする

といったことが報告されていたりするんですよ。つまり、不確実性の高い現実の中で採用するマインドセットが、私たちが感じ、経験し、実践する内容に影響を与え、さらに人生にも重要な意味をもたらす可能性があるってわけですね。

で、今回の研究は18~39歳までの5,365人を対象としたもので、

  1. WHOがCovid-19パンデミックを宣言した2020年3月11日から10日間の間に、参加者にはアンケートに回答してもらう

  2. アンケートの内容は、Covid-19パンデミックに対するマインドセット、ポジティブ・ネガティブ感情、健康行動(CDCのガイドラインの順守、食事や睡眠の優先順位など)、成長やつながりの感覚、ウェルビーイング(QOL、身体的健康、精神的健康)など

  3. 同様のアンケートを6週間後と6か月後にも実施して、最初のマインドセットがその後の行動やQOLにどんな影響をおぼしたのかをチェック

みたいな内容になっております。ここで調べられたマインドセットは以下の3つです。

  • カタストロフィー・マインドセット:Covid-19パンデミックは、我々の社会に大混乱をもたらす世界的なカタストロフィーである!
  • マネジャブル・マインドセット:Covid-19パンデミックは、私たちが通常通り生活できるように管理することができるものである!
  • オポチュニティ・マインドセット:Covid-19パンデミックは、私たちの社会がポジティブな変化を遂げるチャンスとなり得る!

当然ながらCovid-19パンデミック独自のマインドセットの分類はまだ確立されてないんで、これらはストレスや慢性的な病気の人を対象に作成された分類を応用したものなんですが、マネジャブル・マインドセットやオポチュニティ・マインドセットを持っている人に比べて、カタストロフィー・マインドセットを持っている人は身体的、社会、感情的な障害が大きくなるという傾向はこれまで一貫して確認されているんですよ。病気にかかったら「何もかも終わりだ…」って考えている人よりも「これは成長のチャンス!」「自分の選択次第でどうとでもできる!」と考えている人の方が心身ともに健康でいられるってのは想像に難くないでしょう。

そしてこのマインドセットの分類はCovid-19パンデミックに対してもある程度有効であることがわかりまして、以下のような結果が得られたんだそう。

  • パンデミック宣言直後では、カタストロフィー・マインドセットまたはオポチュニティ・マインドセットに同意する人が多かった(それぞれ65.75%、75.57%)。一方マネジャブル・マインドセットを支持する人は13.77%しかいなかった
  • 年齢、学歴、人種、性別、政治的立場等を調整したところ、「パンデミックはカタストロフィーである」と強く考えていた人ほど、その後ポジティブな感情が減少し、ネガティブな感情、不健康な行動の頻度、孤立/無意味の経験が増加し、身体/精神的健康が悪化し、QOLも低下していた
  • 一方、「パンデミックはチャンスである」という記述への同意が強いほど、よりポジティブな感情、孤立/無意味の経験の減少、成長/つながりの経験の増加、より良いメンタルヘルス、およびより良い生活の質と関連していた
  • 「パンデミックは管理可能」と考えていた人は、その後のポジティブな感情が大きく、ネガティブな感情が小さく、孤立/無意味の経験が少なく、健康な行動が多く、不健康な行動が少なく、ウェルビーイングも良好である傾向があった
  • カタストロフィー・マインドセットとオポチュニティ・マインドセットの両方がCDCガイドラインの順守と関連していた。つまり、「Covid-19パンデミックはどうにもできない事態!」と考えていた人も「Covid-19パンデミックは成長のチャンス!」と考えていた人もソーシャルディスタンス、自宅待機、マスク着用、手洗い等の活動を積極的に実践していた。逆に、マネジャブル・マインドセットを持っていた人はCDCガイドラインへの順守率が低かった

というわけで、どうやらパンデミック初期のマインドセットによってその後のメンタルや行動が大きく変わっていたみたい。ちなみに、最初は少なかった「マネジャブル・マインドセット」に同意する人は時間がたつにつれて増加していく傾向があったそうで、経時的にマスクをつける人がどんどん減っていった!みたいな事実とも一致しますな。

また、ごらんのとおりカタストロフィー/オポチュニティ・マインドセットは互いに排他的ではありませんで、この点について研究チームは以下のような心強いコメントをしておられます。

ある状況をチャンスと認識するためには、カタストロフィーであるという事実をある程度認識することが必要なのだろう。
(中略)
このパンデミックをチャンスととらえるには、必ずしもこのユニークで困難な状況のマイナス面を見過ごしたり否定したりする必要はないのだ。

そもそも「社会に衝撃が加わってる!」って認識ができないと、「成長の機会ととらえて頑張ろう!」って考えにもならないというわけですね。たしかにいつも通りの日常の中で人生の優先順位を見直してみよう、なんてめったになりませんもんねぇ。

また、この研究では各マインドセットのQOLに関する媒介モデルも検討されてまして、

  • パンデミック初期にカタストロフィー・マインドセットを持っていた人は、ネガティブ感情が増加し、ポジティブ感情が減少し、不健康な行動(運動・食事・睡眠)をとるようになったことでその後のQOLの低下につながっていた
  • 一方、オポチュニティ・マインドセットはポジティブ感情の増加、健康増進行動の優先順位の高さという要因が媒介して6か月後のQOL向上につながっていた

って傾向があったそう。いずれのマインドセットを持っていた場合でも、手洗いやソーシャルディスタンスといった行動を実践するようにはなるという点は一致するんだけど、感情やその他の行動が真逆に進んじゃうせいで半年後のQOLにも差がでちゃうんだ、と。こりゃなかなか面白いっすね。

まあこの研究は全員アメリカ人だし、80%以上が女性なんで、どこまで一般化できるのかは謎。また、必ずしも「パンデミックはカタストロフィー!」って考えが悪いってわけでもありませんで、研究チームは以下のように注意を促してます。

私たちの目的は、これらのマインドセットを説明することであり、それを処方することではない。あるマインドセットは、特定の目的に対して他のマインドセットよりも有効かもしれないが、このパンデミックを乗り切るために人々が採用すべきマインドセットは、必ずしも正しいものでも間違ったものでもないのだ。例えば、パンデミックはカタストロフィーであるという考え方は、確かに多くの点で不適応かもしれませんが、CDCが推奨する行動への関与の度合いが高いことと関連しているように見えるだろう。

何事にもいい面と悪い面があるってことで、「こんな考え方をしてしまっていた自分はどうしようもないやつだ!」と考える必要はないぞ!ってわけですな。むしろその思考が心身の健康を蝕んでいく可能性すらありますもんね。

とはいえ、先日投稿した以下のTweetともかぶりますが、「パンデミックすら成功に変えてみせる!」ってマインドセットを意識しておいた方がいろんな面でメリットは大きいはず。

Making sense of a pandemic: Mindsets influence emotions, behaviors, health, and wellbeing during the COVID-19 pandemic

4.6
Rated 4.6 out of 5
Tomohiro Okugawa

科学的知見を自分の体で試して、日常生活に活用していく人。知識の収集が趣味で一般向けにその共有をしたいと思って執筆中。京都大学環境衛生学等。

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